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第1は、学歴を採用基準にしていたかどうかです。

そもそも学歴を採用基準としていない場合は、履歴書に書かれた学歴が偽りであったとしても、解雇をすることは難しいと考えられます。履歴書にうそを書いたことで使用者との信頼関係が失われたとして何らかの懲戒処分を科すことは可能ですが、解雇に値するほどの「重要な経歴の詐称」とは言えないからです。

逆に、一定の学歴を採用基準としていた場合は、会社に採用の判断を誤らせたとして解雇が有効になる可能性が高まります。

解雇を無効と下した判例

過去の判例でも、裁判所は「労働者が使用者からそれら(学歴その他の資格)の申告を求められた場合には、労働者は、少なくともそのうちの重要な部分については、これを正確に申告する信義則上の義務を負うものというべきである」と判断しています。(スーパーバッグ事件?東京地判 1979年3月8日)

上記判例は、「高卒以下の学歴」を条件に工場のオペレーターの求人を出していたにかかわらず、短大卒の学歴を隠して入社したという、まさに今回の神戸市の職員と同じ「逆詐称」の事件だったのですが、この裁判では労働者の懲戒解雇が有効とされました。

これに対し、「学歴不問」の求人で大学中退を高卒と偽ったケースでは、裁判所は「採用条件については、特に大学在籍者は採用しない旨学歴の上限を画することはせず、むしろ「学歴不問」としたり、また下限についても必ずしも明確ではなかった。そして本件は、このような採用条件の不明確さが重要な場面で影響したと考えられる」として、解雇無効と判断をしました。(三愛作業事件?名古屋地決?1980年8月6日)

以上を勘案すると、少なくとも会社が一定の学歴を採用条件に求人を掲げている場合には、学歴を高く偽ったにせよ低く偽ったにせよ「学歴を偽ったこと自体」が信義則違反となり、使用者との信頼関係を失わせたとして、原則として懲戒解雇の対象になりうるということです。

第2は、企業秩序の維持に影響があったかということです。

採用段階で学歴を基準にしていたかにも密接に関連していますが、使用者は企業秩序の維持のために学歴を重視することが少なくありません。判例の判決文でも「企業秩序」というキーワードはよく使われています。

「学歴を一定以上または一定以下で均質化させることで職場の人間関係を円滑に保つ」「上司との学歴の逆転現象により無用な摩擦を避ける」「社員教育のカリキュラムやキャリアプランが学歴別に最適になるように設計されている」、などの理由で、学歴の詐称は「企業秩序」という観点で見ると低い学歴を高く偽るだけでなく、高い学歴を低く偽ることも解雇事由となります。


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