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一方で「学歴等によって配属先が異なることはありません(例:一般行政の大学卒と高校卒で、配属や昇任の扱いについて差異はありません)。(A12)」と記載があり、採用後の人事制度に差がないのであれば、学歴詐称による企業秩序の維持に対する影響は小さいので、この点だけを取ってみると、懲戒解雇は不当なのではないかという理屈が成り立つ余地もありそうです。

しかし、懲戒解雇の決め手となるには、第3の観点である「経歴詐称による顧客や社会に対する影響」ではないでしょうか。

公共の職務であり、国民の納税によって運用されている公務員の採用試験で経歴の詐称が行われたこと自体が国民の公務員制度に対する信頼を失わせてしまいます。また、公共の職務であるからこそ学歴に応じて幅広くチャンスを与えようとしているにもかかわらず大卒者が高卒者の試験を受けることで高卒者のチャンスが奪われてしまうことになります。

「大は小を兼ねる」的な発想はNG

定年後の再雇用も含め38年間勤め続けたという実績が評価されないわけではもちろんありませんが、「一定期間隠し通せば、許される」という前例ができてしまっては、モラルハザードを誘発してしまう可能性も否定できません。

公務員の学歴詐称による懲戒免職の有効性が争われた過去の裁判例は、筆者の知る限りではなさそうですが、公務員の公共性を鑑み、民間企業以上における学歴詐称よりも厳しい判決が下ると予想されます。仮に今回懲戒免職となった神戸市の男性職員が神戸市を相手に訴訟をした場合、神戸市が勝訴する可能性が高いと考えられます。

このように、学歴の詐称によって採用されるということは、低い学歴を高く偽ることが問題となるだけでなく、高い学歴を低く偽ることも「大は小を兼ねる」的な発想で許されるということではないのです。

高い学歴を低く偽って採用された場合も、学歴を偽ったこと自体に対する信義則違反、企業秩序への影響、顧客や社会に対する影響などにより、発覚した場合には懲戒解雇、諭旨解雇、普通解雇のどれになるかは別として、解雇処分を下される可能性があるということです。懲戒解雇になった場合は、退職金を受け取る権利も原則としては失われます。

発覚を恐れながら仕事をするのは精神的にもつらいものがありますから、学歴は正しく申告したうえで採用試験を受けるようにしたいものです。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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