ニュース本文


高山本線の復旧は、古川町には大きな幸いだが、ブームの一巡というトレンドは変わらない。「『君の名は。』をきっかけにして、観光の地力をつける必要がある。古川町に観光客が来てくれるのは、町に商業化されていない普段の生活感があるからだ」(北村観光課長)。

古川町は、2002年にNHKの朝の連続ドラマ「さくら」でもブームを経験している。そのときのブームも一過性に終わっている。その経験を生かして、古川町のアイデンティティーを探ると結局は、「白壁土蔵の美しい町並みと鯉の泳ぐ瀬戸川。瀬戸川沿いは通学路になっており、子供たちの『こんにちは』という声が聞こえるといった生活感」(同)になる。

商業化されていない観光

古川町の隣は、飛騨地方の観光拠点である高山市である。さらには白川郷、下呂市という競争力のある観光地に囲まれている。これらの市町は観光面で協力関係にあり、周遊などで手を携えて共存を促進している。

だが、それぞれ差別化で魅力を付けていかないと、脱落してしまうことになりかねない。高山市は、インバウンド客を取り込むためにホテル建設にとりかかっている。だが、古川町はそうした方向はむしろ避けて、高山市との差別化を意識している。ホテル建設など大型宿泊施設の誘致などに動かないというのである。

「宿泊しないと観光消費額を増やす滞在時間が持てない面があるので、今、力を入れているのがゲストハウス(1棟貸し)と民泊の充実。高山市とは競合しない形で、できるだけ商業化していない宿泊を提供する。インバウンドなど観光客のニーズに合って、特別な感じを持てるような受け入れ施設を整備したい」(北村観光課長)

鯉の泳ぐ瀬戸川は飛騨市古川町の象徴でもある(写真:飛騨市)

飛騨市には旅館、ペンション、ロッジ、民宿など59の宿泊施設があり、そのうち古川町には24の宿泊施設がある。商業化していない普段の生活感のある施設を目指している。

1棟貸しのゲストハウスはすでに6棟が稼働しており、インバウンドのファミリー客向けなどに使用されている。ゲストハウスはさらに拡充を見込んでいる。民泊も現在モニター中で、実験を重ねてあらたに戦列入りを進めている。

地方自治体もゆるキャラやふるさと納税で覇を競うところから一歩踏み出さないと生き残れない。民間企業のようにマーケティングや経営判断で生き残りを図る必要がある。

ブームは必ず去る。『君の名は。』という巨大なブームにすら依存することはできない。そうした最も厳しい想定に立って考える。飛騨市古川町は聖地巡礼ブームに沸いたが、今やっているのは『君の名は。』離れということになる。

小倉 正男 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

早稲田大学法学部卒。1971~2005年、東洋経済新報社で記者・編集者、企業情報部長、金融証券部長、編集局次長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事などを歴任。著書に『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(共に東洋経済新報社刊)、『日本の「時短」革命』『倒れない経営―クライシス・マネジメントとは何か』『「第四次産業」の衝撃』(いずれもPHP研究所刊)など。2012年から「小倉正男の経済コラム」をウェブで連載中。

この著者の記事一覧はこちら

1 2 3


記事一覧 に戻る 最新ニュース読み比べ に戻る