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こういった状況においては、コンテンツプロバイダは否応なしにビジネスモデルの変革を求められるのであり、それは漫画であっても例外ではない。すでに漫画市場においても、LINEマンガ、少年ジャンプ+、comico、ピッコマといったアプリが展開され、無料で一部の漫画を読むことができるようになっており、さらには、コミックシーモアやコミックDAYSといったサブスクリションモデルも展開され始めている。

上述のような海賊版サイトが横行するような状況は決して許すべきではないが、法規制によってダウンロードを違法にさえすれば、これまでどおりのパッケージモデルによるビジネスが永続的に続くという考えは幻想であろう。

漫画市場がピークにあった20年前には、スマホはおろかインターネットすら普及していなかった。現在では、コンテンツの量も圧倒的に増えているし、消費者がこれを楽しむスタイルも多様化している。漫画産業は、そうした時代の流れに合わせた変革が必要である。

音楽ダウンロードを違法化しても、音楽業界の収益の回復にはつながらなかったことを考えれば、静止画ダウンロードを違法化してもそれだけで漫画産業の売り上げが回復するとも思えない。法による規制はあくまで補助的役割にすぎない。重要なのはあくまで創作に関わる者たちのイノベーションであり、それこそが産業を支える推進力なのである。

柔軟な規制が求められる

著作権法という法律は、適法か違法かということで明確な線を引いてしまうと、なかなか運用が難しい法律であり、白でも黒でもないその間にグレーの領域が広がっている。

著作権法は第1条で法の目的として「著作者等の権利の保護」と並べて「文化の発展」を掲げている。このグレーの領域を一律に処断してしまうと、文化の発展を阻害しかねない。法の運用には一定の「遊び」が必要なのである。

海賊版サイトの対策として静止画ダウンロード違法化は一つの方法ではあろう。しかしこれが仮に法制化された場合に、厳格に適用してしまえば、これまで通り自由に好きなキャラクターの画像をインターネットで閲覧したり、スクラップがわりに保存したりといったような行動が取れなくなる。

インターネット上には膨大な数の画像があげられており、どれが適法でどれが違法にアップロードされたものかを判別するのは極めて困難だからだ。また、現代の創作行為にはこのようなインターネットを通じた情報収集・整理は不可欠であり、それが阻害されて人々が漫画コンテンツにふれる機会が減少すれば、新たな創作の障害となり、産業全体の減衰につながるおそれがある。

具体的な条文がどのような文言になるかはまだわからないが、仮に静止画ダウンロードを違法化するとしても、画像を保存したら一律に違法とするのではなく、単行本1巻分、連載1回分などある程度の分量の漫画をダウンロードしているような悪質なケースに限って可罰的違法性を認めるといった柔軟な規制を行うことが必要であろう。間違っても、刑罰範囲の拡大によって広く認められた裁量が濫用されるようなことがあってはならない。

独自性と高いクオリティを有する日本のコンテンツは極めて重要な成長産業の柱であり、角を矯めて牛を殺すような愚を犯さぬよう祈るばかりである。

田上 嘉一 弁護士、弁護士ドットコム取締役

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たがみ よしかず / Yoshikazu Tagami

こちらも早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。陸上自衛隊三等陸佐(予備自衛官)。防衛法学会、戦略法研究会所属。大手渉外法律事務所にて企業のM&Aやファイナンスに従事し、ロンドン大学で Law in Computer and Communications の修士号取得。知的財産権や通信法、EU法などを学ぶ。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や企業法務ポータルサイト「BUSINESS LAWYERS」の企画運営に携わる。TOKYO MX「モーニングCROSS」などメディア出演多数。

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