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アニメというジャンルは、近年とくに、ハリウッドにおける稼ぎ頭。だが、時代の流れとともに、アニメのキャラクターも進化してきた。今のアメリカの “意識高い系ママ”は、王子様に救われるのを待っているお姫様の話は、娘によくない影響を与えると考える。彼女らが娘に与えるのは、妹が果敢に姉を救う『アナと雪の女王』や、やはり女の子が大活躍する『モアナと伝説の海』のようなアニメだ。

また、ストリーミング業界で競争が高まる中、Netflixにとって、オリジナルアニメは重要な戦力になってきている。ディズニーとワーナーが自社のストリーミングサービスを立ち上げるに当たり、次々にNetflixから作品を引き揚げていく中、Netflixはますますオリジナル作品の製作に忙しいのだが、中でもとくに子供を引きつけるアニメを豊富に揃えることは、会員の確保上、不可欠なのだ。

すでにAmazon Prime VideoやHuluといったライバルがいるうえ、ディズニーとワーナーまで増えると、一般人は、「全部払うのは大変だから、どれかを解約しよう」と思う。そんなとき、もしわが子がNetflixでしか見られないアニメを気に入っていたら、「これはやめるわけにはいかない」と考えるからだ。

もちろん、Netflixが『聖闘士星矢』に関して下した決断についての不満をソーシャルメディアに投稿した人たちは、親の了解を得なくても好きなものを好きに見られる世代だろう。だが、いくら世界的にアニメが成熟した文化として認められていても、アメリカで予算をかけて作られるとあれば、子供も見られることが前提となる。そうやって作られても、それをわが子に見せるかどうかは、それぞれの親の判断だ。

「この時代に、5人のヒーローが全部男なんですってよ。何を考えているのかしらね」などと最初から悪評が立ってしまっては、せっかくの投資が台無しになる。

この一件の背景にポリティカル・コレクトネスがあるのはたしか。だが、ポリティカル・コレクトネスの背景にあるのは、ビジネスだ。これは決して、Netflixがフェミニストを支持していることを意味しない。ハリウッドを動かすのは、いつだってお金。この先、ヒーロー像がどんなふうに変わっていこうが、そこだけは変わらないのである。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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