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何が本質的な問題なのでしょうか。内部留保課税の本質的な問題は、株主価値の毀損ということであり、これこそが最大の問題点だと考えています。

行政側がやることは、キャッシュに税金をかけること?

例えを出してみましょう。ある優秀なファンドマネジャーがうまく儲けてくれることを期待して100万円のおカネを託した投資家がいたとします。ファンドマネジャーはその期待に応えて150万円に増やしてくれました。もちろん所定の税金や手数料は払い済みです。ところがそのファンドマネジャーは、「今は積極的に投資するよりも、資金を現金で持って様子を見よう」と考えたとします。

そこに行政が絡んできて「投資しないのはけしからん!?投資しないのだったら税金を取るぞ!」と言ったらどうでしょう。「そんなバカな!」と誰もが思うに違いありません。

でも内部留保課税というのは、これと似たようなことなのです。これが投資信託であれば、誰もがとても不合理なことだと思うでしょう。ところが内部留保に課税するということについては株主の間から「自分たちの持っている価値が毀損される、不合理だ」という声をあまり聞きません。

なぜでしょうか。配当が増えたり減ったりするのと違って、内部留保が自分たちのものであるという実感があまりないからです。でも内部留保も配当も、紛れもなく株主に帰属するものなのです。

むしろ問題なのは内部留保ではなく、その内どれぐらいを実際にキャッシュで持っているかです。キャッシュ自体は何も生み出しませんから配当するか自己株買いをするか、あるいは儲けるために何らかの新規投資に向けるべきです。

行政がやることはそのキャッシュに対して税金をかけることではなく、規制を緩和することで投資機会を創出し、内部留保を使って新たに魅力的な投資先ができるように政策を考えることではないでしょうか。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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