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振り返ると、市場のトップ・セグメントに集中するという、こうした判断は正しいものだった。1920年にラジオが登場すると、自動演奏機能付きピアノの市場は干上がり、1929年の世界恐慌でアップライト市場にも同様のことが起こった。世紀の変わり目には1400あったピアノ製造業者のほとんどが倒産している。

2度めの試練

1972年、ファミリー・ビジネスの創業から120年が経ち、スタインウェ
イの品質のDNAはまたしても試練を迎えた。アメリカの巨大メディアグループ、CBSに会社が売却されたときだ。

ピアノ市場は、日本製の低コストのメーカーや電子ピアノの台頭など、いくつかの要因で切迫していた。スタインウェイの株を持っていた子孫たちは、会社に必要なだけの投資をすることはできず、十分に資本を持つCBSの買収は、悪くない解決に思えた。実際、買収後は長年の懸案だった生産設備への投資が行われた。

CBSは投資を回収するためにいくつかの措置を取り、そのひとつがコストの削減だった。スタインウェイの製造工程は手間とコストのかかるものだったので、これは意外ではなかった。たとえば、社では独自の木材専門家がいて、世界市場で最高品質の木材を購入していた。購入したあとは12カ月から24カ月の期間、乾燥させる。そのうえで品質が基準に満たない約半数は使用されない。この種の膨大なコストを、CBSは減らそうと考えたのだ。さらに収益も増やそうと、たとえば流通網を早々に拡大しようとした。その過程で、スタインウェイが伝統的にピアノ販売業者に求めてきた専門知識などの基準は緩められた。

CBSの方針は、散々な結果となった。確かに最初は売上も利益も伸びたものの、スタインウェイの評判に傷がついたのだ。ピアニストたちはスタインウェイの品質に疑問を感じるようになり、スタインウェイのグランドピアノの下取りが盛んになった。

1977年から1985年のあいだに、CBSはマネジング・ディレクターを4人変え――その前の120年と同じ人数だ――、会社を立て直そうとしたが、会社に対する顧客や従業員の信頼は低下の一途をたどった。社内の士気も下がり、とうとうCBSは音楽部門を廃止し、販売プロセスがうまくいかなかったスタインウェイも売られた。


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