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ところが3月になって突然、「米朝で直接首脳会談を行なう」、という流れになった。もちろん、首脳会談が実現するかどうかは予断を許さない。だが、トランプ大統領が自分自身で直接北朝鮮と交渉する、ということになれば、彼の過去の言動からすれば、「中国は役立たずだ、あんな国はいらない、You are fired!」ということになってもおかしくない。自分の意に沿わない閣僚を切り捨てるのと同様、自分にとって役に立たない国も切り捨てるということなのだろう。

対中圧力を強める場合に、トランプ大統領が気にするのは、数字だけだ。現在の対中貿易赤字が何億ドル減るのか、という点にしか関心が無い。目先の利益の数字だけをアピールする企業経営者と一緒だ。

つまり、仮に中国が、真摯に米中貿易不均衡の是正に努力したとしても、結果としての対中貿易赤字が大幅に減らなければ、トランプ大統領は全く評価しないだろう。逆に、どんな手段を使ってでも対中貿易赤字の数値が大幅に減れば、それによって米国経済・産業にどんなデメリットがあっても(たとえば中国から安く調達できる品質のよい製品が、米国にはいってこなくなるなど)、トランプ大統領は全く意に介さないだろう。

なぜトランプ大統領が数字にこだわるか。それは、大統領選挙時に投票した支持層である、自動車、鉄鋼などの産業の工場労働者に対して、「私は英雄だ、このように中国を叩き、みなさんの雇用を守ることに尽力している」とアピールしたいためだろう。対中貿易赤字を削ることで、自動車や鉄鋼の雇用が盛り上がるとは考えがたいが、そんなこともトランプ大統領の視野にはなく、もし中国叩きをしても「雇用改善につながっていない」、という批判が高まれば、次はメキシコや日本や欧州を含む他国をいけにえに祭り上げるだけだろう。

ただ、米国の人たちは、それほどバカではない。13日(火)に、ペンシルバニア州で下院の補欠選挙が行われた。同州はもともと共和党が強く、またピッツバーグなどの都市近郊における鉄鋼産業で勤務する有権者も多いため、鉄鋼に対する関税導入は、与党共和党への支持を集めるとの観測もあった。しかし結果としては、余りにも僅差なためまだ勝者が決しておらず(不在者投票分や米軍人の投票分の集計が遅れているため)、最終的に共和党候補が当選するとしても、極めて薄氷を踏むようなものとなりそうだ。つまり米国の有権者は、トランプ大統領の「中国を叩いてお前たちの雇用を守ってやっているごっこ」には、冷淡な目を向け始めていると言える。


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