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ほかにも、熱を反射する遮熱塗料、火災から守る耐火塗料、防カビ、耐薬品等の特殊機能を備えたものがある。常時、海岸線に沿って走る車両では耐塩害も考慮される。電車の屋根に塗られる塗料もこの一例で、美装が目的ではなく、高い絶縁機能を有したものである。

塗料の成分は、大きく分けて顔料、樹脂類、溶剤の3つで構成される。保護を主目的に色以外の性能を決定づける塗料の骨格、すなわち塗膜を作るベースが樹脂類で、アクリル、ウレタン、シリコン、フッ素等の種類がある。ここに挙げた4つは後者になるほど堅牢(ただし震動等に耐えられる弾性も必要)で傷つきにくく、耐水性、耐候性といった面でも高性能を備える。その分、高価になる。ちなみに、日本古来の樹脂と言えば漆が挙がる。

色となるのが顔料である。顔料と言うとベンガラや紺青等の名を日本画の絵具や陶器の色付けなどで耳にするが、そのような鉱物系の無機顔料は発色性に劣るため主流でなく、現代の冴えた多彩な色を生み出しているのは、化学合成、すなわち石油や石炭等から精製する有機顔料である。

そして3つめの溶剤は、樹脂と顔料で構成される塗膜成分を溶解または分散させて流動化する液体で、油、アルコール、石油を蒸留抽出する炭化水素系などのほか、水も挙げられる。水で薄める塗料が水性塗料、シンナーとも呼ばれる有機溶剤で薄める塗料が溶剤塗料で、昔は植物油が主要成分である油性塗料が代表であった。塗った後は水は蒸発、有機溶剤は揮発して抜け、樹脂と顔料を成分とする堅い塗膜ができる。乾いてしまえば、水性塗料といえど、もはや水で融けることはない。

阪急電車「美しさの秘密」

この3種の混合に関するさらなる区分でも、よく耳にする名称が出てくる。樹脂だけを溶剤に溶かしたものが透明塗料で、ニス、ワニス、クリヤがある。一方、樹脂と顔料を混ぜて溶剤に溶かしたものは不透明塗料(ペイント)とされ、その中でとくに塗り肌が滑らかで高い光沢を放つものがエナメル塗料として区別される。

阪急電鉄が使う塗料のさまざま(撮影:久保田 敦)

以上のことからは、アクリル塗料、ウレタン塗料、エナメル塗料等の言葉はよく聞くものの、前二者と後一者では別のカテゴリーで区分された名称とわかる。植物油と組み合わせるフタル酸樹脂に対してアクリルやウレタンは光沢を有し、さらに硬化剤と混合するタイプは厚みが生まれ、その混合比率により滑らかなエナメル塗料となる。

過日、阪急電鉄の正雀工場で見たマルーンの一斗缶には「ハイウレタンNo2000」の商品名とともに、「化学名・合成樹脂エナメル塗料」との記載があった。ここに阪急電車が美しいと評される秘密の一端がありそうだ。


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