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日本塗料工業会で説明してもらったところ、塗料の良しあしは有機化学そのもので、樹脂や顔料の分子構造による。「分子構造」は高校の化学でその基礎を学ぶが、原子同士の結び付きを示した俗に言う「亀の子」で表される。図は、数百にもおよぶ赤や青などの有機顔料の中でも比較的退色しにくいとして重用されるキナクリドン系の分子構造だが、その六角形(ベンゼン環)から突き出した「手」で示された部分の元素を工夫することがポイントだと言う。たとえば、「=NH」や「=O」との組み合わせにより発色もよい高級塗料になる。

ただ、「組み合わせる」と言っても、理論的な合成方法がわかっていても、収率と称して、原料物質の量に対して実際に得られる量に差がある。いわゆる歩留まりであり、多くの場合、その率は低くて合成は容易ではない。化成会社はそのために連綿とした研究開発を行ってきたのであり、精製には巨大プラントが必要になる。それらが塗料の価格に反映することは言うまでもない。

鉄道と異なる自動車の塗料・塗装

では、そのような高級塗料が何に用いられるのかと言うと、身近で最たるものは自動車である。10年以上にわたり美しい色が保たれる。一方、古い建物や道路脇に見かける看板や案内板などでは、退色しやすい赤の文字がすっかり消えてしまったものも、ときおり見かける。鉄道車両の塗料は、この両者の中間に位置すると言ってよい。

30?40分で1両の塗装を終了。塗装機のブースが移動してまだ濡れたような状態の車体が徐々に姿を現す(撮影:久保田 敦)

かつて鉄道車両用の塗料は、アルキド樹脂の中の一つというフタル酸樹脂がほぼすべてだった。4種の樹脂を前記したが、その配列に当てはめるとアクリルの下に位置づけられ、最も廉価な塗料ということになる。しかし、鉄道車両は定期的に「洗う」作業があるため、放置されるものとは違い、劣化の要因になる酸が除去されるし、理論的にはブラシでこするたびに表面が磨かれる。そのため塗装の品質は比較的長く維持されるので、コストパフォーマンスに優れた塗料として使用されてきた。また、このフタル酸樹脂には反応させるための植物油が加えられるが、それが他の塗料にない塗りやすさを生み出す。

もう一つ、フタル酸樹脂塗料が愛用された理由は「肉持ち感」と表現されるボリューム感だった。車の塗装と見比べるとわかるように、その肉持ち感が鉄道車両の存在感や安心感に結び付くとして重視されてきたそうだ。


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