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――ことさらコミュニケーション力重視という教育に異論あり、と。

僕らの時代は、教科書で最初に習う文がThis is a pen. かI have a book. だった。ところが最近ではFor here or to go? みたいな変則的な文が突如出てくる。「店内でお召し上がりですか、それともお持ち帰りですか?」って、シャレた会話をできるようにしましょうという意図なのか何なのか。しかもその口語が全世界で通じるかどうかわからない。中学で教えるべき英語はオーソドックスな型。For here or to go? なんて言い方をわれわれが知っている必要もないし、ほかにもっと覚えるべきことがある。

「僕がおごるよ」はネイティブの口語でIt's on me. だけど、教科書で習った型を使ってI'll pay for you. と言えば、それがネイティブ流ではなくても100%意味は通じる。そういう英語を作るには中3までのオーソドックスな文型とよく使う単語を覚えていれば困らない。僕はイタリア語が専門ですが、留学当初は全然話せなかった。だけどイタリア語の型を身に付け単語も知っていたから、3週間後には会話に困らなくなった。いつまで経っても英語ができないのは、文法力・語彙力不足の2つが根本原因なんです。

発音より話の内容が重要

――実は英語学習は壮年期のほうが有利なんだとか。

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なぜかというと、年を重ねるにつれ経験知や判断力が豊かになり、日本語の語彙も増える。20代のように音だけ聞いて覚えられるのと違い、年を取ると文字を見なければ覚えられない。実はそれが土台となる読み書きに向いてるわけです。英語は読み書きができればできるほど、会話を勉強したときにレベルが高くなる。読み書きレベルが低いと絶対ステップアップできない。会話力は読み書き力を超えることはありません。

壮年のほうがより長い人生を送っていてコミュニケーションのツボも心得ている。作家の村上春樹氏の英語なんて全然ジャパニーズ発音だけど、話の中身がしっかりしているから問題なく通じるわけ。発音が悪いなんて文句は出ない。ビジネスピープルも同じで、必要とされる英語力は実は会話力でなく読み書き力。発音より話の内容が重要なんです。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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