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登戸は通勤定期が0.3%増、定期外が4.6%増。町田は通勤定期が0.5%増、定期外が1.6%増だった。どちらも定期外が大きく伸びた反面、定期はさほどでもない。小田急は登戸でJR南武線利用者を、町田でJR横浜線利用者を取り込めると想定しているが、これまでのところ期待どおりにはなっていない。

小田急はダイヤ改正時に「HELLO NEW ODAKYU!」のキャッチコピーでCMを集中投下し、露出を図った。運転士、車掌、駅係員の制服も12年ぶりに一新した(撮影:風間仁一郎)

複々線化は小田急沿線には広く知れわたったが、「沿線外での認知度を高めるのが課題」と小田急側は考えている。複々線化のPRはテレビCMや新聞・雑誌広告でも行っており、沿線外にも広く浸透していると思われたが、単に知っているというだけでなく、実際に利用という行動に移して初めて認知度が向上したと認められるということだろう。

ダイヤ改正後の混雑、遅延状況も明らかになりつつある。同社によると、朝ラッシュ時には、改正前に1本当たり平均で2分半の遅れが発生していたが、1分程度の遅れまで縮小した。混雑率も192%から150%を割る水準まで低下したという。

快速急行は激しく混雑

しかし、これはあくまで平均の話。混雑率は列車によって濃淡がある。「快速急行に混雑が集中している」と星野社長は説明し、その混雑率は170?180%に達するという。これでは複々線化前と変わらない。たとえば、新百合ヶ丘では混雑が激しい快速急行の1?2分後にやってくる通勤急行はかなりすいているという。「後から来る通勤急行に乗っても新宿到着は1?2分遅れるだけ。分散乗車のPRに努めていきたい」と同社広報部は話す。

多摩線については、新宿方面に向かう通勤急行を新設した一方で、東京メトロ千代田線に乗り入れる急行が廃止となった。千代田線を使って大手町方面に向かう利用者にとっては途中駅で乗り換える必要があるため、「ダイヤ改正の発表直後は、問い合わせの電話がずいぶんあった」(広報部)という。しかし、乗り換えを余儀なくされはするものの、ダイヤ改正前と比べて所要時間は短縮されており、「最近は問い合わせがほとんどなくなった」(同)という。

小田急の星野晃司社長はダイヤ改正後の「快適性」を強みに、利用者の新規獲得に大きな自信を見せる(撮影:梅谷秀司)

このようにダイヤ改正によって小田急の想定どおりに進んでいる部分と、そうなっていない部分が見えてきた。想定どおりになっていない点については、再びダイヤ改正を行って利用者のニーズに合わせる必要があるのか。その点について、星野社長は「今のダイヤを1年間続けてみて、新たなダイヤ改正が必要なのか見極めたい」としている。

2001年にJR湘南新宿ラインが開業した際は、小田急小田原線や東京急行電鉄東横線からJRへ利用者がシフトし、小田急と東急は速達列車を設定して所要時間を短縮するなどの対抗策を迫られた。今回も競合路線からの旅客シフトが予想されているものの、今のところJR東日本(東日本旅客鉄道)、東急ともに「目立った影響は出ていない」としている。

値下げで対抗した京王のように、他社が危機感を覚えるほどのダイヤ改正を小田急は今後打ち出すことができるか、しばらくは目が離せそうにない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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