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 「残念ながらそうです。6年目の転移は珍しいケースです。良いニュースは、膀胱(ぼうこう)はきれいでしたよ。これからは私の手を離れ、『Oncology』の部門に行くようになります」と説明をされたが、単語の意味が分からず医師にスペルを書いてもらった。

 帰宅をして「腫瘍学」と理解をしたあとに、獨協医科大学から留学されたばかりの高山賢哉先生に電話をした。

 先生とは、留学に関するメールのやり取りをするうちに、お互いに相通じるものがあり、読書の趣向も同じだった。

 「高山さん、呼吸器内科って肺がんも診るのですか」

 「もちろんですよ。それで誰が肺がんなんですか」

 「私…」

 小さな驚きの声が電話を通して聞こえた。「どちら側ですか」と聞かれ、「両肺だって」と返事をする私に、間髪入れず先生は「僕、一緒に病院に行きます!」と叫んだ。

 経験したことのない未知の日々へ進む上において、この高山先生が手の届く所にいつでもいてくれ、どんな小さな疑問でも、日本語で聞くことができ、日本語で返事がもらえることは、どんなにありがたかったことか。

 元阪大の吉岡淳先生、そして高山先生の2人がそばにいてくれれば恐れるものは何もない。それで駄目なら、それはそれで自分の定まった命だと思った。

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【プロフィル】新田多美子(Tamiko Arata) 大分県津久見市生まれ。72歳。1983年に米ボストンに移住し、日本などからの留学者向けに住居の手配、生活用品の買い物、車購入と自動車保険など生活の立ち上げサービスの仕事をしている。

 現在は、がん治療を受けながら働く毎日。治療では、スイスのロッシュ社による新薬の免疫チェックポイント阻害剤「アテゾリズマブ」を使っている。日本ではまだ認可が下りていない。早く認可が出た米国で、実際の治療を通して知見が得られている最新治療を受けることを聞いた私の回りの日本医師たちは、口をそろえたように「幸運だ」と言う。



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