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 Hさん「友人のユンギョンと一緒に、教えられた道を必死に走りました。どのくらい歩いたでしょう。やっと親類の家にたどり着いたときには、2人とも門前で崩れ落ちました」

 私は、「その助手と他の同級生はどうなったのですか」と質問した。

 Hさん「北朝鮮に連れて行かれたと思います。もう2度と会うことはありませんでしたから」

 「特に淑明女学校は両班(特権的な階級)の家柄の生徒が多く、李王家の縁戚の子女もいましたから、北朝鮮では親日として辛い目にあったことでしょう」

 「再会した両親に、助手さんが自身の命をかけて助けてくれた話をしますと、父は『南にいれば、立派な医者になっていただろうに。惜しい青年だった』と嘆息をしていました」

 闇夜の中、一緒に難を逃れた2人は終生の友で、米テキサスに住むユンギョンさんとHさんは毎夜、電話をしていた。

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 2011年に右の腎臓摘出手術をしてから5年間、半年ごとの検査も無事終えた。

 「おめでとう。1年後に会いましょう」

 医師からの言葉だった。

 「5年過ぎれば、もう大丈夫」と回りから言われ、年2回の健康診断における血液検査でも血圧以外は何の異常もなかった。

 1年後の2016年7月半ばにCTスキャンを受けた後、ケーンズ医師の診療室でしばし待たされる。

 いつもの穏やかな顔で入ってきた彼は「良いニュースと悪いニュースがあります」とスクリーンを指さしながら言った。

 「では、悪いニュースから」とお願いをすると、「残念ながら、両肺にTravelしています」

 「『Travel』って、転移の意味ですか?」と聞きながら「『Travel』は旅行の意味だけでないのか」と一瞬思ったりした。



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