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――制度戦略というのは、具体的にどんなことですか。

自分たちの顧客や関係会社のみならず、あらゆる利害関係者、たとえば政府であったり、業界団体であったり、消費者団体であったり、事業に関係してくるあらゆる当事者との関係性を戦略的に検討し、それに対して適切な打ち手を考案し、その打ち手を堅実に実行することです。

最もわかりやすい事例は、ウーバーの展開でしょう。日本では対抗する企業や団体の巧妙な対抗策によって十分に浸透しませんでしたが、世界中の多くの国々で、政府や政治家に働きかけるだけではなく、ときには消費者運動を側面から支援することで、市場のあり方、法規制そのものを変えてしまい、新しい事業の隙間を作り上げてきました。

緻密な計算と地道なアクションを起こし続ける

琴坂 将広(ことさか まさひろ)/慶應義塾大学環境情報学部卒業。博士(経営学・オックスフォード大学)。小売り・ITの領域における3社の起業を経験後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に勤務。同社退職後、オックスフォード大学サイードビジネススクール、立命館大学経営学部を経て、2016年より現職。上場企業を含む数社の社外役員および顧問、仏EHESSのアソシエイト・フェローを兼務。専門は国際経営と経営戦略(写真:筆者)

すでに存在する市場を前提とするのではなく、その市場を自社にとって優位なものに変えようとアクションを起こすこと。それを緻密な計算と地道な打ち手の連続によって実行していくことが、制度戦略の根幹です。

――GAFA以前に、そうした発想を持つ企業はなかったのでしょうか。

もちろん、こうした発想自体はなんら珍しくも新しくもありません。たとえば、途上国に進出するためには、そもそもの法規制が存在しないようなことも多々あったために、現地の政府と共同して規制や制度を作り上げていかなければならなかった場合もあったでしょう。日本の企業の場合、商社が途上国で道路や電線、発電所などインフラをつくっていたりしますよね。これとまったく同じ話です。もっと身近でシンプルなものであれば、ロビーイングや陳情と呼ばれるような行為もまったく同じ発想です。

しかし、GAFAを代表格とする現代の多国籍企業は、こうした行動を極めて組織的に、また科学的に行っています。たとえば、ウーバーは自社に忠誠心の高い顧客のうちで、ウーバーの展開に反対する政治家の選挙区に住む顧客に対して、その政治家に対して陳情をするように促したりします。データ分析を最大限に活用し、世論を自社の都合のいい方向性に動かせるように多面的な打ち手を実行しています。


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