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データブックに含まれる「インフォメーション」は「ないと困るもの」であって、専門家にとっても非常に有用だと言える。そしてそこからどのような「インテリジェンス」、あるいは示唆を導き出すかが、読者は問われている。

ここでは、国際情勢を専門とする研究者としての立場から、本書のなかで注目すべきデータを取り上げ、そこからどのような示唆が導き出されるか、考えてみたい。

民主主義指数に日本がない

1つは、「民主主義指数」である。かつて民主主義の牙城であったアメリカと、アジアで長い歴史を持つ民主主義国家である日本がトップ20にランクインしていないのだ。

アメリカは、冷戦に勝利してイデオロギー闘争を終結させ、民主主義のチャンピオンとなった国だ。そして、その最たる同盟国である日本は、近年隣国である中国が急速に大きくなりつつあるなかで、民主主義の先頭に立って「普遍的な価値に基づくリベラルな秩序」を守っていくのだと言っている国だ。その2カ国がベスト20に入っていない。このことに、われわれはまず注目すべきである。

一方で、中国が民主主義指数のワースト20に入っていないという点も指摘しておきたい。昨年アメリカが発表した国家安全保障戦略(National Security Strategy)では、「中国はわれわれ(アメリカ)の価値を覆そうとする修正主義者だ」とはっきり言っている。つまり、中国は民主主義という価値に敵対する勢力だということ。その国がワースト20のなかに入っていないのだ。これはどういうことだろうか。

今、アメリカと中国の間で「第2の冷戦」といわれ、世界的に大きな議論になっている。「冷戦」というのはイデオロギー闘争であって、それがアメリカと中国の間で起きようとしている。

言い換えれば、民主主義というイデオロギーをめぐって世界的に争っている当の本人たちが、いずれのランキングにも出てきていないのだ。

中国の習近平国家主席は、「人類運命共同体」を提唱している。そのなかには、「民主」や「自由」という概念が主要な柱として掲げられており、それはいわゆる西側の概念とは異なるが、権威主義体制の下で中国なりの「民主」や「自由」を主張しようとする姿勢であるといえる。他方、アメリカではトランプ大統領の登場によって、移民制限や保護主義など、「民主」や「自由」という価値とは相いれないような政策も打ち出している。

大国間のパワー・シフトが起き、国際秩序が変化する中で、民主、自由とは何か??そうした基本的価値について、改めて議論する時代に入っていることを示唆するデータであるといえる。「民主主義指数」の算出方法を再検討する必要もあるだろう。


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