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最後に注目したいのは、「自動車保有率の上位国」と「自動車販売台数」だ。中国で車は異常なまで売れている。アメリカ(2位)の販売台数が約600万台であるのに対し、中国は約2500万台だ。3位が日本で約440万台だから、2位と3位を合計した数よりはるかに多くの車が中国で売れている。

一方で、保有率を見てみると中国はランキング圏外になっている。ここから何がわかるかというと、中国における自動車販売の伸びしろが計り知れないくらい大きいということだ。

もし仮に、中国における保有率が1000人のうち200人だとすると、800人分の伸びしろがあると言える。中国がこれからもっと豊かになって国民全員が自動車を持つようになれば、販売台数が4、5倍に膨らむ可能性が十分にあるのだ。

これは、自動車メーカーや関連産業の人々にとっては極めて重要なデータであると同時に、そうした自動車が排出する二酸化炭素(CO2)のことを考えれば、地球の環境問題がより一層深刻にならざるをえないことも予測される。

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先ほど挙げた自動車のみならず、中国はかつて海運王国だったギリシャや日本を抜いて「商船の数」で圧倒的な1位だ。このあまりに急速な中国の成長を目にして私たちが考えておかねばならないのは、先ほど指摘した環境問題に加えて、ソフト面での問題もある。

たとえば、「報道の自由度」で、中国はワースト5位になっている。あるいは、「ジャーナリスト弾圧指数」ではシリアを抜いて1位だ。「ジャーナリストの収監数」でも2位。

つまり、環境問題をはじめとする物質的な負の側面と、当局による思想弾圧などに見られるような精神的な負の側面の両面があるということだ。このハードとソフトの両面で、私たちは中国の強さと弱さ、明と暗を見据えなければならない。

その際にもし、こうしたデータを根拠に相手国の企業と交渉しようとする場面があるとすれば、その時はやはりデータの根拠を確かめておかねばならない。1つひとつ、どういう理由でそれらの指標が導き出されているのかを説明し、その問題が客観的に見ても是正されなければならない問題であることを訴える。そのような積み重ねによって初めて、異なる「価値」を背景とする相手に対しても、強く迫ることができるのである。

小原 雅博 東京大学大学院法学政治学研究科教授

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こはら まさひろ / Masahiro Kohara

1980年東京大学文学部卒業、1980年外務省入省。1983年カリフォルニア大学バークレー校修士号取得(アジア学)、2005年立命館大学にて博士号取得(国際関係学:論文博士)。アジア大洋州局参事官や同局審議官、在シドニー総領事、在上海総領事を歴任し、2015年より現職。立命館大学客員教授、立命館アジア太平洋大学客員教授、復旦大学(中国・上海)客員教授も務める。『東アジア共同体?強大化する中国と日本の戦略』(日本経済新聞社)、『チャイナ・ジレンマ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書も多数。

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