ニュース本文


話を聞くと、軽トラ市は道路使用許可や食品販売許可が大変な面はあるものの、地方活性化のツールとして効果があり、現在は月1ペースで開催する場所が多いとのこと。食品は近く、物品は遠くからの出店が多い傾向で、最近はフリーマーケット的な参加者も多くなってきたという。

宇都宮の軽トラ市では、レンタルと思しき車両もあった。東北地方の名産品を販売しているのに地元ナンバーで、新車同然だったからだ。この点を愛知大学の関係者に聞いたところ、レンタルであるという。ただしレンタルを行っている軽トラ市は珍しく、愛知大学の地元である新城市はさまざまなカスタムを施したオーナー車が多いそうだ。

スー爺サンタの正体は…

ところで宇都宮に限らず、栃木県で開催している軽トラ市は、すべて「スー爺サンタの」という枕詞がついている。現場を訪れた際は、地元の発起人に敬意を表しての表現なのだろうと、さほど関心を持っていなかったのだが、帰宅してから調べてみると意外な事実がわかった。

「スー爺サンタ」のイラストが描かれた垂れ幕(筆者撮影)

同県で軽トラ市を開催することになった経緯は、2010年の商工会法施行50周年栃木県大会におけるスズキ会長の鈴木修氏の基調講演にあった。会長がそこで新城市の軽トラ市のすばらしさを紹介したのがきっかけで、翌年早速商工会の新たな事業として軽トラ市を開催したところ評判がよく、今年度は13の商工会が開催。さらに実績が買われ、全国軽トラ市の開催が認められたのだという。

こうした詳細な記述以外にも、「『スー爺サンタ』ことスズキの鈴木修会長」という言葉は各所で見ることができる。会長からの贈り物という意味で、このような表現にしているようだ。宇都宮の軽トラ市の写真を見直すと、確かにスー爺サンタのイラストは会長を思わせる。

そういえばスズキは2015年と2017年の東京モーターショーに、同社の軽トラ「キャリイ」をベースとした、軽トラ市をイメージしたコンセプトカーを出展している。同社広報部によれば、直接支援はしていないものの、ディーラー単位でのバックアップはあるほか、鈴木会長が全国軽トラ市に参加するのは恒例となっており、残念ながら筆者は会えなかったが宇都宮にも来ていたという。

東京モーターショー2017出品車両「キャリイ軽トラいちコンセプト」(写真:スズキ)

時系列から見れば、雫石町で軽トラ市が始まり、その流れがほかの地域に波及していく過程でスズキが存在を知り、宣伝役を買って出たというところだろう。ゆえにメーカー自らが表に出ない方針にしているのかもしれないが、あの名経営者が軽トラ市の振興に一役買っていたのは事実であるようだ。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

この著者の記事一覧はこちら

1 2 3 4


記事一覧 に戻る 最新ニュース読み比べ に戻る