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一方、トランプ大統領は、財務長官ではなく、ライトハイザー氏を対中国首席交渉人に任命することを明確にしている。アルゼンチンで合意された「休戦」に関しては、多くが懐疑的であり、中にはこれを「軟弱な取引」と見る人もいる。こうした人たちは、トランプ氏が中国側からの大豆と天然ガスの購入の申し出に飛びついて、安易な勝利宣言をするだろうと考えている。

しかし、こうした懐疑論者は、ライトハイザー氏とトランプ氏との関係の重要性を見落としているかもしれない。ライトハイザー氏は、20カ国・地域首脳会議後、立て続けのツイートで陽気に、しかしいわくありげに、自らを「関税人間」と呼んだ人物である。

過去の協議と決定的に違う点

「アルゼンチンでの合意は正しい方向への一歩だったと思う。アメリカは歴代政権においても、市場参入や知的財産、共同事業などについて中国側とさまざまな協議を行ってきているので、今回の取り決めは過去を彷彿とさせるものだ」と、1980年代、日本との貿易協議に長く関わったライトハイザー氏と親しい関係を維持している元貿易担当高官は話す。

「ただ、過去の協議とは少し違ったと感じさせる点もいくつかある。1つは、今回はアメリカ政府による関税に端を発したものである、ということだ。言い換えれば、中国側は、今回はアメリカが本気であるとわかっている。2つ目の違いは、何らかの具体的な取り決めに達しなければ行動に出る、という明らかな脅威があることだ。

最後に、以前の協議は貿易と外交政策について従来的な考え方を持つ人物と大統領によって進められてきた。しかし、今アメリカ側を主導するとみられるライトハイザーは、ダボス会議タイプの人ではない、ということだ。トランプ氏も明らかに違う。クドロー氏やムニューシン氏が大きな役割を担う場合よりも、インチキな取引になる見込みははるかに少ないだろう。

3カ月後に、中国が多くの重要分野に関して譲歩をしているだろうとは期待していない。だから、政府が結局何らかの関税とそのほかの方策の両方、あるいはどちらかを課すことになることは十分ありうることだ。もしそうなったら、アメリカ政府はそうするだけのより強力な立場に立つだろうし、より多くの国際的な支持が得られることになる」

こうした説明は、多くの人が抱く政府内の混乱のイメージとはまったく異なる。だが、大統領が好んで主張しているように、政府が機械のように円滑に動いで機能している、ということを意味するわけでもない。アメリカ政府は、いくつもの政権が同時に動いている奇妙な状況ではあるが、その中で最も重要な人物はやはりトランプ大統領なのである。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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