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では、内部留保で設備投資や給料を上げろという考えはどうか。これも仕訳で考えれば簡単に間違いだとわかる。すでに説明したとおり、給与アップや設備投資で減るものは「現金」であって内部留保ではない。

現在日本企業が保有する現金は200兆円を大きく超えている。つまり、百歩譲って「過剰に現金を持っているのだから給料や設備投資に使え」という話はまだ意味も通るが、「内部留保を給料や設備投資に使え」は、そんなことをしても現金が減るだけで内部留保は1円も減りません、ということになる。

給料アップの要請は労働者として何ら問題のない行為だが、その際に内部留保を使えと余計なワードを使うから議論が混乱してしまう。給料アップの要請に根拠を持たせるために出てきた話が内部留保だと思われるが、根拠にもなっていないことは明らかだ。サービス残業をやめさせろとか、名ばかり管理職・名ばかり店長に残業代を払えとか、そういった主張のほうがよっぽど根拠がある。

内部留保を減らす方法

では内部留保を減らす方法はないのかというと、そんなことはない。

1つは給料をたくさん払って赤字にすることがあげられる。赤字になると純資産の部にある利益準備金が減るからだ。設備投資も買った時点では現金が設備へと形を変えるだけだが、設備もまた毎年少しずつ費用として計上されて赤字になれば利益準備金を減らすことになる。

さて、これらは認められるかどうか。給料が増えれば社員は喜び、設備投資が増えれば取引先の機械メーカーも大喜びだと思うが、現金が余ってるから、内部留保があるから、という理由でこんなことをやれば経営者は株主にクビにされるだけだ。場合によっては株主に訴えられる可能性すらある。

株主に文句を言われない形で内部留保を減らすにはどうしたらいいのか。これは配当を出せばいい。現金が減り、内部留保も減るからだ。

実際、不要な現金をため込むことは企業経営的には褒められたことではなく、株主の圧力に押されて資金を一気に配当することもある。特別配当とも呼ばれるが、マイクロソフトは2004年から4年間で8兆円という、史上空前の配当(配当と自己株買いを含む株主還元)を行った。

政府が企業の内部留保を減らしたいのであれば、現在20%となっている配当への税率を非課税にすればいい。金持ち優遇と批判を受けるだろうが、株価も上がって年金資産の運用にもプラスとなり誰も困る人はいない政策になるだろう。


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