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では、企業の経営者は毎年積み上がる現金や内部留保を減らしたいと思っているのだろうか。実際はその真逆だ。

2017年3月期も大手や準大手を中心に多くのゼネコンが過去最高純益を更新した。大林組以外にも、長谷工コーポレーションや戸田建設など、この春新たにスタートしたゼネコン各社の中期経営計画には「内部留保の確保」の文言が躍る。積み上がるキャッシュの使い道として、内部留保の充実が選ばれているのだ。

東洋経済オンラインも「大林組が配当より内部留保『貯蓄』に励む理由」というタイトルの記事を2017年6月16日に配信している。

内部留保の貯蓄に励む理由として、記事では建築業界の先細りが挙げられているが、建築・不動産業界は不況のあおりを真っ先に受ける。リーマンショックのときには上場企業の破綻数が過去最高を更新したが、そのうち半分は不動産系だった。当時内定切りで世間の注目を集めたのも不動産系の会社だ。経営者として、身を守るために現金をため込んでおくことはある意味当然のことだ。

内部留保は攻めに使われる

また、守りだけではなく攻めでも内部留保は必要だ。近年の大型買収の1つに、2014年のサントリーホールディングスによるビーム(現・ビームサントリー)の買収がある。ジンビームで有名な酒造メーカーだ。

買収額は約1.6兆円と報じられたが、決算書を見ると2014年は1.4兆円程度が株式取得にあてられている。そのほとんどがビームの買収によるものだろう。必要な資金として1.1兆円は借入金だが、残りは自己資金で賄われた。結果的に前期末に約4186億円あった現金は買収が実施された2014年末には約1993億円と、半分以下に激減している。

この買収によりサントリーは蒸留酒メーカーとして世界ランキング10位から3位へと一気にのし上がった。

それ以前にも、2009年には傘下のサントリー食品インターナショナルが仏オランジーナ・シュウェップス・グループを3000億円で、2013年には英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)の飲料事業を2106億円で、巨額の買収を立て続けに実施している。2013年は株の発行で約2754億円を調達しているが、企業は自己資金、借入金、株式発行とそれぞれの資金調達について、自社の株価や金利水準、保有資金の状況に合わせてその時々で最適な手段を検討する。

結果的にこれらが正しい買収だったかどうかがわかるのは何十年も先になるが、手元に積み上がった現金も内部留保も無駄ではないか?とサントリーHDの経営者が問われたなら、多分苦笑いをするだろう。


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