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現時点では、日本のほとんどの産業は、生産性が低いままです。だからこそ日本は輸出小国なのです。これも、先ほどの論文のとおりです。

輸出と「企業規模」の深い関係

輸出を増やすために、日本には大きな足かせが1つ存在します。「人口減少で日本企業に『大合併』時代が訪れる」でも指摘した、小さい企業が多すぎるという問題です。

あるドイツの研究では、輸出をする企業の社員数は、輸出をしない企業の3倍も多いという事実が報告されていました。なぜそうなるか、理由は説明するまでもないでしょう。

経産省はじめ政府が主導して実施する、輸出を増やすための政策が空振りに終わってしまうのも、規模が小さすぎる企業が多いことに原因があります。世界的に見ても優れた技術があるにもかかわらず、日本の輸出額が異常に少ない理由がここにあります。

もちろん自動車メーカーはじめ、日本にも従業員が数万人以上いる企業があり、それらの多くは海外への輸出も盛んに行い、成功しています。しかし、これら大企業は日本全体の企業の中のほんの一握りでしかありません。

日本の企業の大部分は、いわゆる中小零細企業で占められているのは皆さんもご存じのとおりです。そして、この規模の小さい企業の多さが、日本があまり輸出を増やせなかった大きな要因であり、生産性が低い最大の原因でもあるのです。

海外の学問的検証により、社員の給料水準が高くなればなるほど、輸出に適していることが明らかになっています。給料は会社の規模が大きくなればなるほど高くなる傾向があることから、企業の規模と輸出の有無には、強い相関関係があるのです。

日本では今後、何十年間にわたって人口が減り続けます。それに伴い需要が減り、供給が過剰になります。余った分の一部を輸出という形で海外に持っていくのは、理屈としては簡単ですが、実際行うとなれば話は別です。

輸出を増やすためには、生産性を高める必要があります。生産性を高めるには事前に労働者の給料を上げる必要があり、それには労働者の集約、すなわち企業規模の拡大が必要となります。この連鎖を促進する政策を採用する必要があるのです。

企業の規模を拡大するということは、中小企業の数を減らすということです。多くの人は中小企業の減少が失業率の向上につながると勘違いしていますが、その考え方は古いとしか言いようがありません。人口が増加していればそうなるかもしれませんが、人口が減少している中では、労働者が集約されることによって企業数が減少しても、失業率は増えません。

企業の規模を拡大しなければ、輸出を増やすことも、生産性を高めることも難しいのです。結局、経済の仕組みをどう切っても、企業の規模の問題に戻ります。

要するに、大半の日本企業は輸出ができる規模ではない上、その規模を追求するインセンティブもないのです。だから、いくら政府がJETROにお金を出して支援すると言っても、輸出は増えません。この問題は支援、成功事例や理想論の問題ではなく、もっと現実的な問題です。

これはまさに日本経済にとってのアキレス腱なので、早急に解消に向けた手立てが不可欠です。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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